溝口健二や黒澤明のカメラマンとして知られる宮川一夫は、小津安二郎が大映で「浮草」(1959年)を監督した時に撮影を担当した。 それ一回だけの付き合いだった。 ロケハンが始まり、宮川が多摩川べりの旅館で小津と同宿した時のこと。 食事は一緒にとったが、宮川は酒が飲めず夜も弱いので、九時半頃には部屋に引き揚げた。 しかし、時に、客や他のスタッフが早く帰って小津が一人になることがあった。 小津は一人では飲めない人で、壁をコンコンと叩いて「もう寝ましたか。ちょっと来ませんか」と宮川を呼ぶ。 行ってみると、一人でお酒の燗をしてチビリチビリやっている。 そんな(飲めない人を誘う)時のために、小津は自分では全然食べないチョコレートや甘い物を用意しているのだと言う。 横浜の海員閣で食事の後、小津が行きつけのバーに行く時は、本当に酔って出来上がっている証拠。 このバーのカウンターにシルクハットが置いてあって、小津が入って来ると、皆が「かぶるよ、かぶるよ」と言う。 小津がそのシルクハットを頭にのせると、皆が「踊るよ、踊るよ」と言う。 小津はカウンターのところに座って、脚をピョンピョン跳ね上げながら ♪スミレの花咲く頃、初めて君を知りぬ♪ とやる。 そこまで行くと、はじめに戻ってそこまでを何度も繰り返す。 そこから先には行かない。 宿屋で酔っ払った時に歌うのは、♪カラス、なぜ鳴くの カラスは山に♪ これもここまでで、最初に戻ってここまでの繰り返し。 「どうしてそこから進まないのですか」と聞くと「どういう訳かこうなるんだよ」と言って嬉しそうにたれ目を細めていたとか。 小津安二郎生誕120年の今年、カンヌ国際映画祭では、シネマクラシックプログラムの中で、4K になった『長屋紳士録』が『宗方姉妹』とともに上映された。
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by yamabato_za
| 2023-06-03 19:09
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ラジオで森本美由紀展開催の情報を耳にして、越路吹雪トリビュートアルバムのことを思い出した。 そのCDジャケットの絵が彼女の描いたものだったのでは、、、と思ったからである。 もう、確実に十年以上聴いていないCDだ。 引き出しの中にちゃんとあった。やはり森本美由紀だった。 知らなかったが、彼女は十年前に亡くなっていて、彼女の作品保存会というのがある。少し不思議な気がするが、それはさておき。 本題は眠っていたCD本体の方である。 越路吹雪の持ち歌を何人かのアーティストが歌っている。 その中に「芽生えて、そして」という歌があった。 これは越路吹雪本人が歌っている。 ただし、リミックスしてあるらしい。 この歌を選んだのは、永瀧達治(妻はフランソワーズ・モレシャン)。 いわく、彼女はシャンソン歌手として大きな功績を残したが、偉大な歌謡歌手でもあり、彼女の歌う歌謡曲の中で一番好きなのがこの歌だそう。 その歌詞に心掴まれた。簡単な言葉で語られた愛の始まりと終り。 その作詞をしたのは、、、永六輔! 驚いた。 「芽生えて、そして」が初めて発表されたのは1963年3月。 作曲は中村八大。 NHKのバラエティ番組「夢で会いましょう」の今月の歌としてペギー葉山が歌い、その後、1967年6月に菅原洋一がカバーしてヒットしたそうである。 (参照ページ→https://duarbo.air-nifty.com/songs/2015/07/post-641a.html) これはもう越路吹雪が歌うのがダントツによい。 https://www.youtube.com/watch?v=f8KWzaGQ-oc 「夢で会いましょう」の今月の歌は、作曲中村八大&作詞永六輔の八六コンビで、全部で57曲作られた。 「上を向いて歩こう」「遠くへ行きたい」「こんにちは赤ちゃん」「帰ろかな」などがある。 作詞家・永六輔を知るために『上を向いて歌おうー昭和歌謡の自分史』を読んでみた。 矢崎泰久(「話の特集」編集長)が聞き手となり、永六輔がそれに答える形式。 二人はお互いによく知る間柄らしく、そのやりとりが面白い(というか、永六輔の受け答えが面白いのだと思う)。 それによると、 ※永六輔、作詞家のはじまり(昭和34年) 永六輔が早稲田大学の夜間に通いながら放送作家の仕事をしていた時、同じ早大生の先輩中村八大はビック・フォーという人気ジャズバンドのピアニストとして大スターだった。 この二人がたまたま有楽町の日劇前でバッタリ会い、八大から作詞をする気はありませんか、と聞かれた。 翌日の朝までに夏木陽介主演映画『青春を賭けろ』で使う十曲を八大のマンションで徹夜仕事で作った。 その中の一曲が、水原弘が歌い、第一回レコード大賞をとった「黒い花びら」。 ※作詞家をやめたのは(昭和44年) ひとつに、作曲家・中村八大と作曲家・いずみたくの間で気を遣うことになったから。 ひとつに、印税収入が増え過ぎたから。 ひとつに、自分の思いを自分で書いて自分で唄うシンガーソングライターの登場をみて、引き時だと思ったから。 ※作詞家に復帰(平成9年) 三波春夫に「なぜ作詞をやめたのか」と聞かれ、「もったいない」と言われたのがきっかけ。その言葉に動かされて作ったのが「明日咲くつぼみに」 中村八大、いずみたく、小沢昭一、矢崎泰久、三波春夫についての知る人ぞ知る話もいろいろあり。 面白い。
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by yamabato_za
| 2023-05-26 19:30
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絵本作家の方とフランスの漫画(バンドデシネ)専門店に行きました。 彼女のお目当ての作家は、Amelie Flaichais(アメリ・フレシェ)という人でしたが、生憎、見本しかありませんでした。 しかし、彼女は他の面白そうな漫画を見つけていました。流石です。 Anouk Ricard(アヌーク・リカール)という人の『Anna et Froga』という本です。 主人公のAnnaと思われる女の子が黒髪で日本人っぽい。ユーモラスでヘタウマタッチ、ミミズのような不思議なキャラクターもいて、面白そうです。 家に帰って、Anouk Ricardのインスタグラムを見つけました。 https://www.instagram.com/anoukricard/ その投稿からわかったこといろいろ。 ※彼女の最新刊は『ANIMAN』(80ページ)という漫画で、クラウドファンディングで出版。 ※『ANIMAN』は、1980年代のアメリカのテレビシリーズ『Manimal』にインスパイアされたもの。Manimalは動物に変身して事件を解決する実写ものです(お話全体は知らないので何とも言えませんが、動画で見たその人間から動物に変身する過程は気持ち悪く、私の趣味ではありませんでした)。 ※漫画『ANIMAN』の主人公はフランシスというちょび髭のおじさんで、妻(?)である蛙のファビエンヌと暮らしています。フランシスが動物に変身することは秘密で、ファビエンヌも知りません。 (←一場面を真似。こんな感じです。) ※紹介されていた一話は、こんな感じです。 「フランシスが外で風景を描いていると、男二人を遠くに認めた。あ!あれはドラッグの売買だ!捕まえるべし!と彼は毒ヘビに変身。売人の足首にかみついた。ところが、近くで見るとそれはドラッグではなくて土産物。しまった!と思ったアニマンは今度はヒルに変身し、傷口に引っ付いて毒を吸い出した。失敗はリカバー出来たが、吸った毒のせいで人間の姿に戻れない。ハエに変身するのがやっとで、飛んで家に戻って来る。ファビエンヌに見つからないように(見つかるとハエなので食べられてしまう。)そっと洗面所に行って解毒剤を探し当て人間の姿に戻った。しかし、洗面台で裸ん坊のところをファビエンヌに見つかってしまう。いい訳に苦しむフランシス、ジャン↑ジャン↓」 『ANIMAN』は2023年アングレーム国際漫画コンクールにて審査員特別賞を受賞していました。 クラウドファンディングをしたサイトで購入可能(日本からはどうでしょう?)、21ユーロ。 Anouk Ricardさんは1970年生まれ。 2011年にもアングレーム国際漫画コンクールに『Coucous Bouzon』でノミネートされたようです(英語のウィキペディアより)。 前出の『Anna et Froga』シリーズは子供向けの漫画とありました。
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by yamabato_za
| 2023-05-07 19:33
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昨年だったろうか、あるサイトで沢田研二の「コバルトの季節の中に」(1976年)の記事を読み、そこにあった動画を見た。 さらに、何本か他の動画も見て、沢田研二を見直したのであった。 彼がテレビを賑わせていた当時も魅力的だとは思っていたが、時を経たこの眼で見ると、また違ったところに関心する。 ステージ上では、スターらしい立ち居振る舞いながら、カッコをつけるというところがない。 対談での受け応えは、自然体で気負いがない。当時の黒柳徹子やタモリが嫌に騒がしく感じられたりもした。 (「徹子の部屋」では、煙草をふかしながら話していた。) (←)1971年11月1日発売 沢田研二ソロデビュー曲 作曲:宮川泰 作詞:岩谷時子 (参照サイトhttp://www.tapthepop.net/day/36671) 「コバルトの季節の中に」は、 沢田研二自身の作曲で、作詞は久世光彦(ペンネーム小谷夏)である。 ジュリーが作曲をしていたとは! 久世光彦がジュリーに心酔していたとは! 知らなかった。驚いた。 さて、はて、現在の沢田研二はいかに、、、 上記サイトの別の記事( http://www.tapthepop.net/news/34239 )に、朝日新聞2012年5月4日に掲載されたインタビューの抜粋が紹介されている。 そこから、さらに抜粋: 昔はジュリー、今はジジイ(笑) 最近と言えば、沢田研二はキネマ旬報主演男優賞に輝いた。 その『土を喰らう十二ヶ月』を映画館に観に行ったのである。 ついに、現在のジュリーをこの眼で確認することになった。 (実に個人的な感想であるが、)悪くなかったが、特にいい!でもなかった。 映画自体の感想も同左であった。 歌手・沢田研二の方がいいかもしれぬ。 (エンドロールに流れた彼の歌う「いつか君は」は心に沁みた。) 一つ気に掛かった事あり。 ジュリーが畑に蒔いた野菜の種を食べに山鳩がやって来るシーンがあるのだが、あれは山鳩だっただろうか? 鼻瘤(びりゅう)があったような気がするのでドバトでは?と首をかしげる私であった。 (重要な事でもないが、DVD等で再度観る機会があったら一応確認。) 【やまばと(キジバト)】もともとは山に棲む野生のハト。羽毛がキジに似て美しい。群れない。捕まえようとすると逃げる。 【ドバト(カワラバト)】食用・伝令用・愛玩用に家禽化されたものが野生化したもの。都会の汚れた物を食べてきたせいなのか、羽毛が美しくないものが多い。群れる。追っ払っても寄ってくる。 #
by yamabato_za
| 2023-04-26 12:24
| シネマ
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映画監督・小津安二郎生誕120年(没後60年)の今年、小津監督が愛用していた白いピケ帽をかぶろう!と思い付きました。 そこここを探した結果、銀座トラヤ帽子店に似たものがありました。 銀座トラヤ帽子店での呼び名は、メトロハットで、ブラックもあります。 小津が実際にかぶったピケ帽(↓)は、小道具係にダース単位で作らせた特注品だそうで、 メトロハットとはデザイン、素材が全く同じではないものの、大満足です。 (河出書房新社刊『文芸別冊 小津安二郎 増補新版』掲載の写真より)
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by yamabato_za
| 2023-04-05 13:49
| 買い物
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